私は天使なんかじゃない






crazy drive







  さあ行こう。
  イカれた旅の始まりだっ!





  「ハービュシンキンオーントゥプレイアゲイン(ライカッテセィティッブアワレリィッゲルウェイ)」
  天気は上々。
  気分は絶好調。
  俺はケリィのおっさんが大枚はたいて整備したというパトカーのハンドルを握り、キャピタルの荒野をアクセル全開で車を走らせる。
  舗装された道?
  そんなもの今のご時世じゃ皆無だ。
  俺が走るところ、それがすなわち正しい道だっ!
  エンジンは全開っ!
  核エンジンではない、排ガスをまき散らすガソリン車だ。
  昔は優等生も持っていたと誰かに聞いたことがある。
  ただ、そのバイクと車はピットに優等生が連れ去られたために、その救出に行く移動の際にガス欠で放棄されたんだとか何とか。
  誰に聞いたんだっけ?
  そいつは忘れてたんじゃないいきなりそういう設定になったわけではないって弁解してたな。
  ……。
  ……どういう意味だ?
  まあ、いいか。
  メガトンを出てまだ一時間ってところだ。
  マックス、いや、マキシーか?
  あいつのお蔭で俺様は復活した。トンネルスネーク最強っ!
  酒場に戻ったらケリィのおっさんがいて、ストレンジャーの居場所を知る奴を見つけたとのこと。正確にはストレンジャーではなくボルト至上主義者を追ってるんだが、ボルト
  至上主義者どもは現在ストレンジャーとつるんでいるらしい。
  どこの神が画策したかは知らないが好都合。
  ストレンジャーともども倒してやんぜ。
  「ボス」
  助手席にはベンジー。
  アサルトライフルを抱えて座っている。シートベルトはしていない。腰には10oピストル、トレンチナイフ、キャピタルじゃ珍しい白いコンバットアーマー。
  後部座席にはケリィのおっさん。
  体に巻きつけている武器は座り心地が悪いと言ってすべて外している。
  向かう先は昔ハンニバルさん達がいた廃墟の建物、らしい。
  そこにストレンジャーの1人が拠点にしているとか何とか。そいつを表敬訪問してストレンジャー本隊の場所を聞き出すってわけだ。マチェットは確かそいつの名をミンチとかって言ってたな。
  「ボス」
  「何だよ」
  「その意味不明な言葉の羅列は、何だ?」
  「歌だ」
  「……何の?」
  「わなっふー」
  「……頭痛くなるから黙っててくれ」
  「頭痛か? 場所変わってもらえよ、後ろに転がっとけ」
  「そいつは勘弁だ。後部座席に押し詰められて連行された時のことを思い出すからな」
  「へー」
  意味分からん。
  まあいい。
  後部座席のメタボに声を掛ける。
  「おっさん」
  「おじさんと呼べ、おじさんと」
  「おっさん」
  「礼儀の知らん奴だ。俺の車だぞ? つまりは王だ。大体……」
  「おっさん」
  「……分かった、それでいい。で? 何だ?」
  「この方向でいいのか?」
  「……」
  おっさんは一度黙り、自分の左手に装着されているPIPBOYを起動、画面を見る。
  俺のバージョンより古い。
  俺のは3200だが、おっさんのは2000。確かガイガーカウンターがないバージョンだったか?
  「ああ、そのままだ」
  「よっしゃ」
  当然俺の手にもPIPBOYがある。
  ナビゲーションシステムも標準装備だ。
  なのに何故おっさんに聞くのか?
  要は世界が荒廃しているからだ。核で吹っ飛び、200年誰も補修していない、崩壊した世界。ナビ通り行ったところで寸断された橋とかで足止めくらうからな。
  ここはやはりキャピタルを知り尽くしているおっさんのナビに従うべきってわけだ。
  おっさんが示すルートはレイダーがいない、足止めを食らわないルート。
  無駄な戦闘は避けたいし足止めもごめんだ。
  何故ならトロイもミンチの場所を探ってる。というか向かってる。
  徒歩で、しかもあいつは西海岸の人間だからな、道に迷っているだろう。時間的なロスはかなりあるが、こちらには車がある。
  まだ追い越せる可能性はある。
  俺はアクセルを踏み込んだ。
  「いっくぜーっ!」
  「止めろ」
  「何だよっ!」

  きぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっっ!

  土煙を上げて車を止める。
  エンジンは切らない。
  「何だってんだ?」
  おっさんは俺の問いを無視して窓を開けて声を張り上げた。
  「ジョーさんっ!」
  あん?
  その視線の先30メートル先には大勢……あー、いや、プロテクトロンか、紙装甲の2足歩行ロボットを連れている一行がいる。ロボットの数は6体。
  まあ、あれだけいたら小集団のレイダーぐらいなら何とかなるか。
  ロボット軍団が先制攻撃限定の時だけ、だけどな。
  逆に奇襲食らったらロボットは全滅だろう。
  そんだけ脆い。
  腕に装着されているレーザー武器はそれなりなんだが。
  声が聞こえたのか向こう側も手を振った。
  「ブッチ」
  「あいよ」
  ハンドルを切ってその一行の元に。
  近付くとジョーと呼ばれた人物はかなりの老齢だと気付く。トレーダーの服を着た老人。腰にはレーザーピストルがあった。
  車を近くに止めた。
  おっさんは開けた窓越しに喋り始める。
  「久し振りです、ジョーさん」
  「ケリィ坊や、久し振りだな」
  「坊やはやめてくださいよ」
  「ワシから見たらまだまだひよっこさ」
  「この人はな、俺の先輩格のスカベンジャーさ。何でも屋のジョー、キャピタルのスカベンジャーの中でも一番の古株の人なんだ」
  「へー」
  俺も会釈する。
  向こうも鷹揚に頷き返した。
  悪い奴には見えない。
  おっさんが敬意を払ってるんだから、まっとうな人なんだろうな。
  「お前さんも自販機パラダイスに行くのか?」
  「自販機パラダイス?」
  何だそりゃ?
  おっさんも知らないらしい。その様を見て老人もそうではないと気付き、説明を始める。
  「カンタベリーコモンズ近くにある場所さ。ワシもまだ行ったことはないが自販機が沢山並ぶ場所らしい」
  「……そんな場所ありましたっけ?」
  「なかった。最近突然自販機が立ち並んだらしい。意味が分からん。カンタベリーのロエ市長も気味悪がって街の住民に近付かないように厳命している」
  「世の中不思議だらけですね」
  「それでケリィ坊や、どこに行くんだ?」
  「ユニオンテンプルのところですよ」
  「ユニオンテンプル? DC残骸のリンカーン記念館はこっちじゃないぞ」
  「あー、違います、昔の場所に用があるんです」
  「あの場所にか?」
  眉をひそめた。
  何かあるのか?
  「あそこはグールズと呼ばれる集団が移り住んでいるな。ああ、グールの集団ではないぞ、元々グールとは戦前のどこかの国では追剥ぎという意味合いで使われていたらしい。そういう意味合い
  でのグールだ。それにあの辺り一帯で旅人が行方不明になっているらしい。最近ではキャラバン隊も避けているルートだ」
  「それは知らなかった。だが行かなきゃいけないんですよ」
  「そうか、まあ、気を付けてな」
  「ありがとうございます。ブッチ、行こう」
  「分かった」
  車を走らせる。
  厄介な障害やイベント、何が来ようと知ったことか、全部吹き飛ばしてやんぜっ!





  その頃。
  狂った科学で生み出された炎を吹き出すファイヤーアントが徘徊するグレイディッチの街。
  地上部分の街は崩壊し無人と化している。
  大半は焼け死に、大半は他の街に逃げ込んだ。
  しかしその地下には元凶であるDr.レスコ、キャピタルで暴れる為にやって来たストレンジャー、ミスティとブッチ抹殺の為に地底奥深くのボルトから這い出してきたボルト至上主義者、
  そしてミスティに対しての報復の為に手を組んだジェリコとクローバーがいる。
  この街は今や混沌の坩堝。
  「鼻がっ! 鼻がぁっ!」
  地下。
  ストレンジャーが与えられている区画の一室。
  端正な顔立ちの男性は顔を抑えて蹲る。
  「ざまぁないねぇ」
  元NCRの軍人であるガンナーはその様を見て嘲笑った。しかし蹲った男性、レディキラーのコードネームを持つ女たらしは反論しない。
  それどころではなかったからだ。
  「殺すなら殺せ」
  鼻を頭突きでへし折った、妙なコスチュームに身を包んだ女性は淡々と言った。
  殺気を込めて。
  「アンタゴナイザー、とか言ったっけ? 何が目的かしら?」
  部屋には3人のストレンジャー。
  腹心のバンシー。
  ガンナー、レディーキラー。
  質問したのはバンシーだった。本来の役目はボマーの護衛なのだが先遣隊が全滅、他の本隊のメンバーはトロイやブッチの抹殺に出向いている為むに手薄な状態。人材不足。
  ランサーは武人肌で尋問には向かない為に彼女が担当している。
  「目的?」
  「そうよ。単身でわざわざ来たんだ、何かあるのでしょう?」
  アンタゴナイザーは拘束はされていない。
  武器は取り上げられたが。
  拘束されていない理由はバンシーがその気になれば簡単に殺せる、その意思表示でもあった。そしてアンタゴナイザーもそのことは理解している。
  だから。
  だから無駄なあがきはしていない。
  チャンスを静かに待っている。
  「目的、あなた達で調べたら?」
  「Dr.レスコは人体実験の材料を欲している。今実験されているボルトのセキュリティが使えなくなったら次はあなたの番。それで尋問終了。行くわよ」
  「了解です」
  「鼻がーっ!」
  3人は退室。
  ガチャリと鉄製の扉にロックが掛けられる音がした。
  部屋には何もない。
  何も。
  静かにその場に座るとアンタゴナイザーは呟いた。
  「街の仇、家族の仇、私の、私のこの異常な体の仇、必ず……っ!」





  「ワナッノゥーっ!」
  「ボス」
  「何だよ」
  「頭痛がするからやめろ」
  「……分かったよ」
  パトカーを走らせる。
  ひたすらひたすら進む。途中でガス欠になりかけたが後部のトランクにガソリンを積んでいたので何とか乗り切った。計画的なおっさんだ。
  今どの辺りだ?
  「おっさん、どの辺りまで来た?」
  「半分だな」
  「そうか」
  「運転変わるか?」
  「いや。運転は楽しいから大丈夫だぜ。ボルトのカリキュラムでも運転だけは好きだったんだ。シュミレーションだけどな。にしてもまさか本物に乗れるなんてな」
  「人生はどうなるか分からんよな」
  元ボルト居住者であるおっさんはしみじみと答えた。
  俺もそう思うぜ。
  まさか自分が外に出れるなんて思ってもなかった。
  「ボスもケリィもまだまだだな。俺なんてエイリアンにさらわれて200年氷詰めだったんだぞ」
  『……』
  何故か得意げに話すベンジーだが、俺とおっさんは苦笑いで沈黙。
  さすがにそれはないだろ。
  ホラなのか?
  まあいい。
  ベンジーが良い奴だってのは分かってる。
  「ボス、腹減ったな」
  「そうだなぁ。おっさん。食い物はないのか?」
  「俺をドラえもん扱いするな。まったく。そっちも何か用意しておけよ。車も何もかも俺持ちじゃねぇか」
  「野望って奴を俺は持ってきたぜ」
  「あー、はいはい」
  「……ちっ」
  いらっとした。
  ベンジーが笑うとおっさんも笑う。
  「ブッチ、しばらくしたら飯にしようぜ。ちゃんと用意してある。缶詰だけどな」
  「酒は?」
  「飲酒運転は駄目だ」
  「ちぇっ」
  うん?
  バックミラーに何か飛び込んで……。
  「やべぇっ!」
  叫んだと同時に後部のガラスが吹き飛んだ。
  バイクに跨った奴がいる。
  ありゃメガトンであったガンスリンガーとかいう奴だっ!
  窓を開けてベンジーが後ろにアサルトライフルを撃つ。バイクを左右に揺らしながらガンスリンガーは銃を撃った。単発だ、ピストル。それは寸分違わずベンジーのアサルトライフルを吹っ
  飛ばした。アサルトライフルは疾走する車からはじき出されて地面に転がった。
  「くそアンカレッジからの相棒がっ!」
  と言っても止まれない。
  パトカーは全力疾走。ガンスリンガーも追撃してくる。
  砕けた窓越しにおっさんは後ろを見る。
  「ヤバいなあいつはガンスリンガーだ」
  「知ってる」
  「知ってるのか」
  おっさんは体から外していた銃の1つ、10oサブマシンガンを手に取ってベンジーに渡し、自身も10oサブマシンガンで応戦。しかしガンスリンガーの反撃で敢え無く銃が吹き飛ばされる。
  何だあいつ、すげぇぞっ!
  「ブッチ、あいつは能力者だ」
  「マジか」
  「確か射線が見える奴だ」
  「射線?」
  「狙った対象に対して、何か線が見えるとか何とか。そこに合わせて撃てば確実に当たるんだとさ」
  「よく知ってるな、おっさん。あいつら情報って常識?」
  「気にするな。ご都合主義ってやつだ」
  「はっ?」
  言っている意味が分からん。
  まあいいか。
  「狩りだな、ボス」
  ベンジーが隣で呟いた。
  「そんな能力があるならこっちを簡単に殺せるはずだ、しかしそれをしない。追い立ててるんだろうな、あいつ」
  「かもな」
  それが正しいかは知らん。
  だがベンジーの憶測が正しいなら、別に仲間がいるのか?
  まあ、確かにそんな能力あるならこっちを殺そうと思えば殺せるよな。ベンジーとおっさんの銃に当てずに頭吹き飛ばせばいいわけだし。
  メガトンでもそうだったし、聖なる光修道院跡でもそうだったが、殺せる場面で殺そうとしなかった。
  そう考えたら盛り上げて殺したがってる?
  ちっ。
  上から目線だぜ。
  自分らの優位が動かないからってゲーム感覚か。
  急ブレーキを踏む。

  ゴンっ!

  後部に衝撃。
  前方に何か降ってくる。
  ガンスリンガーだ。
  急ブレーキ踏んだから車体後部に事故って搭乗者が降って来たってわけだ。、ガンスリンガーは銃を手放してなかった、手に残ってる。ガッツがあるじゃないの。
  ふらつく足で立ちあがってこちらに向ける。
  しかしその時アクセル全開、エンジンは激しい雄叫びを上げてパトカーは爆走。
  再び跳ね飛ばす。
  「ひゃっほぉーっ!」
  「……お前わりとえぐいのな。ボルトでどんな教育受けてんだよ。えっ、今の世代はそうなのか?」
  なわきゃねぇ。
  車を再び止める。
  なかなかしぶといな、ガンスリンガーは足を引きずりながら逃げていく。
  逃がすかよっ!
  ハンドルを回しながらアクセルを踏む。
  その時……。

  ドカァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンっ!

  爆発音。
  一瞬何が起こったか分からなかったが、視界に疾走する影が飛び込んできた。
  警戒ロボット?
  戦前にアメリカ軍に作られた軍用のロボットだ。
  その背中には薄汚れた軍服のようなものを着たグール。どこの軍服かは知らん。そいつは、正確には警戒ロボはこちらに右手、ミニガンを搭載した右手をこちらに向けている。
  やべぇっ!
  急いで急旋回するものの車体が右に傾く。
  タイヤがやられたっ!
  「ありゃ中国野郎の軍服っ!」
  ベンジーが扉を開けて飛び出して10oピストルを乱射。
  俺たちも飛び出す。
  だがグールはこちらとやり合う気がないのか、それとも不利と悟って一時退避なのかは知らないが、ガンスリンガーを拾ってそのまま撤退した。
  逃げられたか。
  「やれやれ」
  おっさんは首を振った。
  タイヤが一つ撃ち抜かれている。
  もちろんミニガンに掃射されてタイヤ1つで済んだわけだから運がいい。最初のミサイル攻撃も車を動かすのがわずかに遅れていたら吹き飛んでいたわけだから、ツキはある。
  今のところはな。
  「交換しなきゃな」
  トランクを開けてタイヤとジャッキを取り出すおっさん。ベンジーはおっさんからショットガンを借りて周囲を警戒している。
  任せるとしよう。
  俺はバイクのところに走る。
  「良いな、これ」
  倒れているバイクを起こす。
  へこんではいるが走りそうだ。俺は跨って2人の元に戻る。
  「俺これに乗るわ」
  「ボスは身体能力が良いな、初めて乗るんだろ?」
  「シュミレーションはしてるからな」
  「おいあれは……」
  突然おっさんは舌打ち。
  ストレンジャーが戻ってきたのか?
  視線の先を見る。
  ジープ?
  こちらに向かって突っ込んでくる。助手席の奴はアサルトライフルを手に持ち、後部座席の2人もアサルトライフルを手に半立ちだ。
  そして運転席の奴。
  ……。
  ……ワリーだ。
  くそ。
  今度はボルト至上主義者かよ。
  刺客ってわけだ。
  めんどくせぇ。
  「ブッチ、ありゃボルトのセキュリティどもだ」
  「だよな」
  「行けっ! 今のところ狙いはお前だからな、俺は後から追いつくっ!」
  「分かった」
  バイクを走らせる直前にベンジーが飛び乗る。
  まったく。
  最初の2ケツが野郎かよ。
  振り落とされるなよっ!
  爆走。
  それと同時におっさんはパトカーの車体の陰に隠れる。ジープは俺をまっすぐ追撃してくる。完全におっさんはノーマークってわけだ。まあ、分かり易くっていいけどよ。
  それにしてもバイク、すげぇっ!
  自分がまるで風になったようだぜ。
  「ひゃっほぉーっ!」
  「ボス、車体を左右に揺らしながら走れ」
  「あいよ」
  ジープの方がパワーがあるようだ。
  追いつきそうになる。
  後ろから声が響いてきた。
  「ブーッチっ! スタンリー爺のPIPBOY売って買ったこの車、どうよっ!」
  知るかボケ。
  何も言わずに俺は走る。
  セキュリティどもはアサルトライフルを撃ち始めた。だが当たらない。いや当たっても困るけど。この間の俺たちのヘリの攻撃と同じだな、動く乗物からの攻撃は銃身がぶれたりで当たらない。
  俺は左右に揺らしながら走り続ける。
  「ボス」
  「何だ」
  「左右に揺らすのをバランスよく頼む」
  「はっ?」
  「一定のリズムでな」
  「了解した」
  ベンジーはショットガンを手に半身を後ろに向ける。
  銃声。
  右のタイヤを撃ち抜かれてワリーは慌てて急ブレーキを踏む、車体は止まらずに右に急旋回。更にベンジーは銃撃、次の瞬間に爆発。
  ワリーの乗ったジープは爆発して吹き飛んだ。
  ガソリンタンクを撃ち抜いたのか。
  ……。
  ……すげぇな、ベンジー。
  俺はバイクを止めずに走り去る。
  ワリーがバーベキューになるのを見たいとは思わない。
  あいつはそうでもなかったようだが、俺にとってはダチだからな。
  見たくはない。
  それから数十分バイクを無言で走らせる。
  警戒ロボットに乗ってたグールの追撃はなさそうだ。少なくとも周囲は何もない。視界を遮るものはない。奇襲はしにくい地形だ。今のところは近くにいないのだろう。諦めるとは思えないが。
  ふとおっさんが心配になる。
  狙いが俺だとしても、おっさんも腹いせ紛れに狙われる可能性がある。
  合流しなきゃな。
  どこかで待ってるべきか……おや、あれは……。
  「おっ」
  一軒の建物を発見。
  横に長い、錆の浮いた作りの建物。ダイナーってやつだな。遥か昔は移動式の店だったっけ?
  移動する為の車両は見当たらないけど。
  俺はそのダイナーの前にバイクを止めた。
  窓が2つ、そこからこちらを見ているウェイストランドの住人がよく着るバラモンスキンの服を着る連中が見えた。向こうもこちらを見ている。
  窓越しに……いや、窓にはもうガラスがないのだが……窓越しに見ると、窓際にテーブル席が2つ、あとはカウンター席のようだ。
  営業しているのか?
  カウンターにはニコニコした顔の女性がいる。女性って言っても30代あたりで俺と同年代ってわけではなさそうだ。
  「ボス、何で止まる?」
  「飯食ってこうぜ」
  店やってるんだろう、多分。
  営業中のようだ。
  「おっさん待たなきゃだしな、おっさんはPIPBOYの波長追って勝手に来るし、ここで待ってようぜ」
  「……」
  「ベンジー?」
  「おかしくないか?」
  「はあ?」
  「連中見てみろ、何も食ってないぞ」
  「何も」
  なるほど。
  バイクに跨ったまま中を覗いてみるがテーブルには何も載っていない。カウンター席にも端と端に客が1人ずつ座っているがこちらを見ているだけだ。カウンター席には何か乗っ
  ているのかもだが当然客が邪魔で見えない。
  「出来上がり待ってるんだろ」
  「この時勢だぞ?」
  「行こうぜ」
  「……了解だ」
  バイクから降りて俺たちは店の中に入る。
  カウンター向こうにいた女性が笑顔を浮かべて言った。
  「いらっしゃいませdead endにようこそ。全席禁煙となっていますがよろしいですか?」
  「いいぜ」
  「空いているお席にどうぞー」
  「おう」
  テーブル席には客がいる、カウンターにも端と端に客がいる、詰めて座るのは居心地悪いしな、俺たちは真ん中に座った。カウンター向こうには扉がある、厨房なのだろう。
  いいねぇ。
  これぞファミレスって雰囲気だっ!
  「ボス」
  「何だよ?」
  「おかしくないか?」
  「気のせいだって」
  女性が水の入ったコップをカウンター越しに俺たちに出す。
  そして笑顔。
  スマイルは0キャップだぜ。
  「当店では特製ミートパイをご提供しています。いかがなさいますか? 調理されますか?」